琉球大学医学部保健学科の喜屋武 享 准教授(兼任 京都大学成長戦略本部Beyond2050社会的共通資本研究部門 特任准教授)、関西福祉大学教職センターの升川 清則 教授、名桜大学大学院スポーツ健康科学研究科の高倉 実 教授(琉球大学名誉教授)の研究グループは、世界保健機関(WHO)が提唱する「ヘルスプロモーティングスクール(Health-Promoting School:HPS)」の実施状況を評価する日本語版調査票を開発し、国内の県立高等学校および県立特別支援学校174校(教職員1,295名)を対象とした調査を実施して、開発した日本語版HPS実施状況調査票が高い信頼性と妥当性をもつことを確認しました。
本研究成果は、国際学術誌Scientific Reportsに掲載されました。
<発表のポイント>
- 日本語版ヘルスプロモーティングスクール実施状況調査票の信頼性と妥当性を初めて検証しました。
- 保健主事の「健康の社会的決定要因に関するヘルスリテラシー」が高い方が、学校における健康づくりのより良い実施状況と関連することを明らかにしました。
- 本調査票は、学校における健康づくりの現状を可視化し、政策立案や教育現場での改善に活用できる評価ツールとなります。
<研究の背景>
子どもの健康づくりは、生涯にわたる健康や社会的格差の是正に重要な役割を果たします。世界保健機関(WHO)は、学校全体で健康づくりを推進する「ヘルスプロモーティングスクール(以下、HPS)」の導入を世界各国に提唱しています。日本では学校保健制度が充実している一方で、HPSという概念や枠組みは必ずしも広く普及しておらず、その実施状況を体系的に評価する仕組みも十分に整備されていません。学校における健康づくりの実施状況を科学的に評価できる信頼性・妥当性の高い指標は限られており、日本において妥当性が検証された評価ツールは存在していませんでした。
<研究の内容>
研究グループは、オランダで開発されたHPS実施状況調査票(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/josh.13277)を日本語化し、日本の学校制度に適合するよう文化的調整を行いました。
具体的には、原版の内容を直訳するのではなく、専門家による前向き翻訳・逆翻訳を経て表現の等価性を確認した上で、日本の学校保健制度に即した用語や役割構造に修正しました。例えば、学校医・学校歯科医・学校薬剤師、養護教諭、保健主事など、日本特有の制度的役割を反映させるとともに、法令により全国的に実施が義務付けられている健康活動項目については、日本の実情に沿った表現へと調整しました。また、日本ではHPSという概念自体が必ずしも広く共有されていないため、「健康づくりの組織的実践」という文脈で理解されるよう設問構成を工夫しました。単なる制度の有無ではなく、学校内での連携、外部専門職との協働、活動の質や改善プロセスといった実践面が適切に測定されるよう項目を再構成しています。
2023年に日本の一県の県立高等学校および県立特別支援学校174校の教職員1,295名を対象とした調査を実施し、統計解析により信頼性と妥当性を検証しました。
<主な結果>

- 日本語版HPS実施状況調査票は、統計解析の結果、設問同士が一貫して同じ概念を測定していること(高い内部一貫性)や、理論的に想定されていた因子構造が再現されることが確認されました。
- 日本語版HPS実施状況調査票は、日本において、①実施量(Dose)、②ステークホルダーの参画度(Participant Responsiveness)、③実施の質(Quality of Delivery)、④組織的統合度(Integration)という4つの要素が「実施忠実度(Adherence)」を構成し、これに加えて⑤独自性(Program Differentiation)と⑥適応的調整(Adaptation)を含む、計7つの側面から学校の健康づくりを評価する構造であることが確認されました(図1)。
- これは、学校における健康づくりが単なる活動の有無ではなく、有機的関連のある多面的な取り組みであることを示しています。これらの側面は理論的に想定された関係構造とも整合しており、日本の学校制度においても国際的な枠組みが妥当であることが示されました。

- 保健主事の健康の社会的決定要因に関するヘルスリテラシーが高い学校ほど、ヘルスプロモーション活動の質や組織的統合度、適応的な運用が優れていました(図2)。このように、理論上想定していた関連が実際に確認されたことは、本調査票が学校における健康づくりの実践水準を適切に捉えていることを裏付ける結果といえます。
<今後の展望>
本研究で開発された日本語版HPS実施状況調査票は、学校における健康づくりの評価・改善を支援する基盤ツールとなります。今後、全国の学校や教育委員会において活用されることで各学校のヘルスプロモーション活動の評価・改善に役立てることができるほか、文部科学省や自治体による政策評価や研修プログラムの開発にも貢献することが見込まれます。
<用語解説>
ヘルスプロモーティングスクール:WHOが提唱する、学校全体で健康づくりを推進する取り組み。教育、環境、保健サービス、地域連携などを統合的に進める。
ヘルスリテラシー:健康に関する情報を理解・評価し、適切に活用する能力。
健康の社会的決定要因:所得、教育、環境、社会関係など、人々の健康に影響を与える社会的・経済的要因。
保健主事:学校の健康教育・保健管理・健康組織活動を統括する教員。学校保健安全法上、全ての学校において担当が置かれることになっている。
<論文情報>
- タイトル:Validity of the Japanese Version of Health-Promoting School Implementation Questionnaire
- 著者:Akira Kyan, Kiyonori Masukawa, Minoru Takakura
- 掲載誌:Scientific Reports
- DOI:10.1038/s41598-026-46477-y