公立大学法人名桜大学

 

健康で長生きするにはどうすればいい? −21世紀の健康長寿−

健康で長生きするにはどうすればいい? −21世紀の健康長寿-

 

 平成24年度、公立大学法人名桜大学に設立予定である「健康・長寿サポートセンター」を記念し、この沖縄の地にふさわしいテーマである「健康・長寿」に関することを最新の知見を用いて考えてみる。 これまでに世界で一番長生きした人は、フランス人女性であった「ジャンヌ・カルマン」さんの122歳が最高である。現在では、女性はアメリカ人である「ベシー・クーパー」さん、男性は日本人である「木村次郎右衛門」さんが115歳で共に最高齢となっている。長寿の秘訣としてジャンヌ・カルマンさんは「病気をしないこと」、木村次郎右衛門さんは「食べ物に好き嫌いはない。食細くして命永かれ」という言葉を語られている。この当たり前とも思われる二つの言葉には、実は健康で長生きするための秘訣が隠されているのである。果たしてその秘訣とは何か・・・

 

 近年、寿命に関する研究が世界各国で精力的に展開され、何かの化合物を摂取すれば人の寿命は大きく延長し健康でいることができるようになるのではないかと、その魔法のような物質の特定(発見)に膨大な費用と時間がつぎ込まれている。その基礎となった知見は、マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガランテ博士のグループが見出した「サーチュイン(SIRT1:酵母ではSIR2という)という長寿遺伝子の活性と寿命との関係についてである」。さらに後の幾つかの研究によって、長寿遺伝子SIRT1が活性化すると生物の寿命は驚くほど伸び、我々を取り巻く様々な病気から身を守ることができることが示唆された。その長寿遺伝子SIRT1を活性化することができる魔法の物質として一躍有名になったのが、赤ワインの中にも含まれている「レスベラトロール」という物質である。この「レスベラトロール」は、長寿遺伝子SIRT1を活性化し生物の寿命を延ばす効果が極めて高いとされ、魔法の物質ついに発見!(誰もが100歳以上健康に生きられる時代が幕を開けた)と、一時は騒然となった。しかし、最近研究で「レスベラトロール」は長寿遺伝子SIRT1を活性化する効果は期待できないことが分かり、落胆の一途をたどることとなる。「レスベラトロール」は、健康な動物の寿命を延ばす効果はないかもしれないが、食べ過ぎによって身体が受けたストレスを緩和する効果や様々な病気を防ぐことができる可能性はあるとされている。赤ワインは「レスベラトロール」に加え史上最強のポリフェノールOPCも含まれており、差し詰め“プチ魔法の飲み物”といったところでしょうか!

 

 人の寿命を大きく伸ばすのに有効的な魔法の物質は、まだまだ見つかりそうにはないが、「私たちは古くから寿命を延ばす方法を知っていたのである」。それは、木村次郎衛門さんの言葉にもある「食べ物に好き嫌いはない。食細くして命永かれ」なのです。私たち人間は「過不足なく必要な栄養を摂り、食べ過ぎない」ことで健康的に長寿遺伝子SIRT1を活性化させ、ジャンヌ・カルマンの言葉にもあるように「病気をせずに」寿命を延ばすことができるのである。最近では、リッキー・コールマン(2009)らのアカゲザルを用いたカロリー制限に関する研究が一躍有名になった。さらには、カロリー制限を行うと、長寿遺伝子SIRT1の活性だけではなく、エムトール(mammalian target of rapamycin: mTOR)の活性が抑制され細胞の寿命が延びることが明らかになっている(mTORは、成長期では栄養を豊富にとることで活性化され、成長を促進させるが、成人以降の活性は逆に老化を促進させてしまう。ジキルとハイドのような関係を持つ)。空腹の状態をしっかりつくり、栄養のバランスを考えながらカロリー制限を行うと、長寿遺伝子SIRT1の活性化とmTOR の活性の抑制によりDNAの活動が抑制され、DNAの安定化へと変化する。これが結果的にDNAの損傷防止につながり、このDNAの損傷防止は直接的に長寿につながるのである。食べ過ぎは、mTORを活性化させるので老化を促進させることになるのである。また、mTORの活性化は、老化の促進だけではなく糖尿病との関係がクローズアップされてきており、成人以降はmTORを活性化させないようにする必要性がある。

 

 

A:20年間30%カロリー制限  B:20年間食べるだけ与える。

 

 人間にしたら80歳くらいになるアカゲザル。見た目も一目瞭然。この時点でAグループの80%以上のサルは元気なのに対し、Bのグループの50%は既に死んでいる。

 


最後に、イースター島で発見されたラパマイシンという物質が、mTORの活性化を押さえ生物の寿命を大幅に延ばすことが最近確認され、またまた一躍注目を浴びている。しかし、人に対しては副作用があり、一般的に応用することは無理ということである。いつの時代においても秦の始皇帝の様に「不老長寿」を追い求め、夢ははかなくも散る運命。結局は、腹八分が一番の「健康・長寿」の秘訣なのである。皆さん頑張りましょう。

参考文献:Colman, et al.(2009)Caloric Restriction Delays Disease Onset and Mortality in Rhesus Monkeys. Science 10,Vol. 325 no. 5937 pp. 201-204

高瀬 幸一人間健康学部スポーツ健康学科
准教授 高瀬 幸一
profile

島根県出身。 専門はバイオメカニクス、運動生理学。高齢者の筋機能に関する研究を行い、国際学会(ACSM)などで活躍する傍ら、地域の老人会で「ゆんたく講師」を務めるなど、幅広く活躍している。陸上競技部コーチ(中・長距離)。