公立大学法人名桜大学

 

学事報告:第7回 人間健康学部シンポジウム(2011/10/1)


島嶼・過疎地域における遠隔医療・看護の可能性を探る

 

日時:平成23年10月1日(土)13:30〜16:00

場所:北部地域看護系医療人材育成支援施設 (看護学科棟)

基調講演を行う
川口孝泰氏

基調講演を行う川口孝泰氏 いくつかの離島や広大な僻地山村を抱えるやんばる地域は保健・医療の課題が山積している(医師や看護職などの不足、診療所・医療機関、救急医療体制の未整備など)。一方でIT技術の格段の進歩・普及により、地理的・物理的な距離概念が無くなるとも言われている。今回やんばる地域におけるデジタル通信ネットを活用した遠隔看護(テレナーシング)の可能性について、また住民参画医療の姿を探求することを目的としてシンポジウムが開催された。

瀬名波榮喜学長の挨拶に引き続き、川口孝泰先生(筑波大学大学院人間総合科学研究科教授)による「次世代医療におけるテレナーシングの可能性と課題」と題して基調講演が行われた。

川口孝泰先生は筑波大学で研究開発中の遠隔看護(テレナーシング)システムを紹介。このシステムは遠隔看護研究スタッフおよび病院所属の看護師、医師(病院所属の専門医)、患者の三者の協働によって成り立つシステムである。遠隔看護(テレナーシング)システムはモバイル端末画面が4分割できて、患者・医師・看護師・データが表示され共時的に情報を共有し「病院外来と同じ場」を作り出すことができる。将来的には患者側に、パソコン・モニターの他、バイタルサイン・パルスオキシメータ・情緒刺激ディテクターなどのデバイス(機器)を設置して看護ケアを実現する。看護の本質的な目標は患者さんがその人らしく生きることを支援することであり、人間が自然治癒力を発揮できるように環境を整えることが看護であるとナイチンゲールが述べているように、看護の目標を達成するための道具がテレナーシングである、と話された。シンポジストの発言要旨は次の通り。

井上比奈氏(国頭村立国頭診療所医師)は、広大な地域をカバーする僻地診療所の日々の活動を紹介して、訪問看護や救急医療の体制整備を強く求めた。またITなどを用いた遠隔医療であっても患者の側からアクセスできなければ何にもならない、機器の先には人がいること、顔と顔が見える関係でないと本当の意味で医療は成り立たない。そのためには北部三村(国頭、大宜味、東)に公立の訪問看護ステーションができることが必要である、と強調された。
鈴木邦治氏(北部生涯学習推進センター長)は、この北部地域の広域ネットワーク事業を推進してきた者としての立ち場から話された。公共的な施設や学校は十分につながっているが、国頭や本部など一部地域の高速通信がまだ未整備である。その理由としては自治体からの積極的な要望がないことも起因している。これからのIT技術の実証研究では高速無線伝送システム(周波数80キロギガヘルツ)を用いて伊平屋島、伊是名島での実証実験を計画している。また名護市では電子地図の上に独居老人などの情報を載せる福祉マップを作製中で訪問看護に役立てようとしている。


泉川良範氏(名護療育園施設長・医師)は、離島に住む人々はリハビリを必要としており、リハビリには島を離れて通ってくるしかない。しかし生活がありなかなか島を離れることができないでいる。その問題を解決するために伊江島で総合デジタル通信(ISDN)を使って実証実験を行ったが、IT技術の開発と言っても、究極的には生活の場ではアナログ的発想が必要になる。人は何を感じ、どのようなものに良さを感じるのかが重要になる。人々のニーズは変化していくので、利用者が生活の場で何が優先されるのかを常に考える必要がある。さらに離島で頑張っている保健医療のサービス提供者への支援も考える必要がある。ITネットのみならず名桜大学や名護市をはじめ北部広域全体で人的ネットワークの構築が必要である。「人々の安心をオンラインに乗せることができるか?」が今後の課題である。
清水かおり氏(名桜大学人間健康学部看護学科講師)は離島診療所で働く看護師への調査結果として「看護師が自分一人しかいないことに困難を感じている。困難を分かち合う人や代替要員がいないため学会や研修にいけない、島を不在にするのが精神的に負担」であると報告。情報通信技術を使った、離島・僻地で働く看護職への支援としては看護職が抱く孤立感・孤独感の軽減や双方向性コミュニケーションが挙げられる。島外の看護師とのコミュニケーション、知識技術のアップデート、インターネットリテラシーの向上などが今後の課題である。

金城祥教人間健康学部長座長のもと執り行われた指定討論

 会場からの質問もあり活発な討論ができた。山間僻地・離島を有するこの沖縄県北部地域における遠隔医療・看護の将来ビジョンとして、訪問看護に際し看護師や保健師がモバイル型の端末機器などを持参して、その場で行うプライマリケアやヘルスアセスメントを基幹病院・保健センターなどの医師や専門看護師、保健師が支援できるシステムづくりが必要となる。そのためには看護・医療職がインターネットリテラシーを修得すること、システムエンジニアなどの養成、大学院看護学研究科において特定看護師(ルーラルナース)の養成、すべての北部広域をカバーするIT技術の開発と普及など北部広域圏として総合的な検討が課題解決の近道だと言える。

総評:人間健康学部長 金城 祥教(看護学科 教授)

シンポジスト井上比奈氏   シンポジスト鈴木邦治氏   シンポジスト泉川良範氏   シンポジスト清水かおり氏   
シンポジスト   シンポジスト    シンポジスト    シンポジスト
井上比奈氏   鈴木邦治氏     泉川良範氏   清水かおり氏