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【スポ健 COLUMN】第2号『ドーピングとオリンピック』

掲載日:2016年7月25日スポ健コラム

 今年に入り、女子テニス界では大きなスキャンダルが報じられました。元世界ラインキング1位のマリア・シャラポワ(ロシア)によるドーピング使用です。検査で禁止薬物(メルドニウム)の陽性反応が示され、シャラポワは国際テニス連盟から、2年間の出場停止処分を受けました。また、昨年には選手やコーチの告発を契機に、ロシアにおける組織的ドーピングが世界アンチドーピング機構(WADA)によって指摘されました。WADAの調査では、モスクワの検査所で1400を超える検体が意図的に破棄されたことが報告されました。さらにWADAは国際オリンピック委員会(IOC)に対して、リオ五輪へロシア選手団全体を出場させるべきではないと勧告しました。

 歴史を振り返れば、ロシアにおける組織的ドーピングと類似したケースが、旧東ドイツで起こっています。旧東ドイツにおいては、国家ぐるみでドーピングが行われていました。医師やコーチが選手に対して、強制的にドーピングを行わせていました。また、選手はビタミン剤と知らされ、知らず知らずのうちにステロイドを摂取させられていたケースもありました。結果として、旧東ドイツの競技力は飛躍的に向上しました。1968年のメキシコオリンピックでの金メダル獲得数は9個でしたが、1972年のミュンヘンオリンピックでは20個に、1976年のモントリオールオリンピックでは40個に達しました。この獲得数は、アメリカと旧ソ連に次ぐ世界第3位でした。もちろん、旧東ドイツはドーピングの力によってのみ、金メダルを量産したわけではありません。最新のスポーツ科学の知識や、ドイツ人そもそもの運動能力の高さも背景にありました。しかしながら、当時の人口が約1700万人である旧東ドイツがこれだけの金メダルを獲得した事実からは、ドーピングの力がいかに大きかったかを理解出来ます。

 ドーピングに関しては、私個人としても、残念な思いを抱いた経験を持っています。スポーツ選手の中で最も憧れを抱いていたランス・アームストロング(アメリカ)によるドーピング違反事例です。アームストロングは癌との闘病生活後に自転車競技に復帰し、最高峰のレースであるツールドフランスで7連覇を達成、さらには、シドニーオリンピックで銅メダルを獲得したスーパースターでした。度重なるドーピング疑惑に対しても否定を続けてきたアームストロングでしたが、最終的には、持久力を高めるエリスロポエチンや筋肉増強剤の使用を認めました。アームストロングはテレビのインタビューで、ドーピングなしでツールドフランスを7連覇するのは可能であったかという質問に対し、「僕の意見では無理」と回答しました。

 私はアームストロングに対して失望しましたが、一方で怒りの感情は沸きませんでした。なぜなら、ツールドフランスに代表される自転車レースの歴史はドーピングと密接な関係にあり、アームストロング以外にも、少なくない選手がドーピングを行っていたと想像出来たからです。もう1つの理由として、私自身もドーピングを行いたいという衝動に駆られた経験を持っていたためです。大学4年生の当時、トライアスロンに取り組んでいた私は、学生生活最後となるインカレ(日本学生選手権)に向けて、練習に励んでいました。1秒でも早くゴールし、1つでも順位をあげるために、飛躍的にパフォーマンス向上を可能とする方法を模索していました。当時の私は、エリスロポエチンといったドーピングは知りませんでしたが、その存在を知っていて、かつ入手が可能であったならば、使用していた可能性はあります。インカレで入賞してもお金にはなりません。それでも、4年間打ち込んだトライアスロンでの敗北は、4年間の練習が無駄になり、自分自身を否定されることに他ならないという思いが当時の私には強くありました。アスリートはお金に目が眩んで、ドーピングに手を染めるといった指摘がなされることがあります。確かにその一面はあります。海外では日本と異なり、オリンピックといったメガスポーツイベントでの活躍は生涯にわたって生活が保障され、時には、巨万の富を築くことにもつながります。しかしながら、お金のみに起因しない理由が存在することを、私は自身の経験から感じました。

 オリンピックでは、インカレよりさらに「より速く、より高く、より強く」なることをアスリートは求められ、世界から注目を浴びます。「より速く、より高く、より強く」というオリンピックの思想に忠実であればあるほど、ドーピングという選択が差し迫ったものになります。また、人々のオリンピックへの注目が高まれば高まるほど、ドーピングへの圧力が高まってしまうというジレンマをスポーツは抱えています。今後も、オリンピック(スポーツ)とドーピングの緊張関係は続くでしょう。なぜアスリートはドーピングを行うのか、なぜドーピングをしてはいけないのか、このような問いを探求することもスポーツ健康学科の学びの1つです。

スポーツ健康学科 大峰 光博

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