公立大学法人名桜大学

 

教育・研究活動レポート:神話のふるさと!長寿島根県

寄稿 神話のふるさと!長寿島根県−八雲立つ出雲−

 宍道湖に浮かぶ美しい嫁ヶ島と夕日 沖縄県は、37年間連続全国1位だった人口10万人当りの100歳以上の高齢者数が、2010年についに転落するにいたった。その代わりに1位となったのが、神話のふるさとで有名な、筆者の生まれ故郷でもある「島根県」である(沖縄県を抜いて1位となったのは過疎化の影響もあるといえるが、2010年現在で100歳以上の高齢者数は全体で534人、人口10万人当り74.37人、ちなみに沖縄県は人口10万人当り66.71人となっている)。もともと、100歳以上の高齢者が多い県は、沖縄県、島根県、鹿児島県、高知県、熊本県などの海に面している県が多く、食べ物が不足していた時代にとって、海産物は貴重なタンパク源となったのである。今回の特集は、近年、新しい長寿県として台頭してきた「島根県」の健康要因について考えてみる。島根県といえば、山陰地方ということもあり地味なイメージで捉えられがちだが、古代神話のヒーロー大国主命が祀られている「出雲大社」を始め、世界遺産である「石見銀山」、当時のままの容を残す「松江城」、夕日の綺麗な「宍道湖」など、実は知る人ぞ知る観光県でもある。若い世代には、漫画で有名になった「砂時計」といえば分かる人も多いと思う。また、城下町である松江市は明治時代の文豪ラフガディオ・ハーン:小泉八雲がこよなく愛したゆかりの地でもある。



海、川、気水域、そして山のものが豊富な島根県

 島根県は日本酒の消費量が日本一多いなど、実は県民の健康意識は必ずしも高いとはいい難い現状にある。では、なぜ長寿者が多いのかというと、島根県は沖縄県(海)と長野県(山)の良いところを併せ持っているところが長寿を支える要因であるといえる。それは海のもの山のものが昔から豊富にあったからである。気水湖も比較的多く、宍道湖七珍といわれる「スズキ、シラウオ、コイ、ウナギ、モロエビ、アマサギ、シジミ」などの魚介類が一年中獲れ、海はもちろんのこと、山には「山クジラといわれるイノシシ」や「シカ」、「キノコ類」や「山菜類」等、豊富な食材に溢れている特徴がある。島根県の高齢者は、こうした地元の伝統的な食材を長年食べ続けたことにより、健康で長寿社会を築いてきたといえる(沖縄、長野と同様にやはり伝統的な食文化は現在の長寿を支える原動力である)。そして土地柄、おっとりおおらかな性格の人が多く、ストレスも少ない生活をしてきたことが、健康長寿の秘訣であるともいえる。「だんだん」とは、出雲弁で「ありがとう」という意味であるが、出雲の地(島根県東部)の人々のおっとりとおおらかな気質を表す、とても美しい言葉である。

がん対策が特出している島根県

 近年、がん、脳卒中、心臓病、糖尿病などの生活習慣病とよばれる疾患が全国的に急増し、長寿県といわれる県においても決して楽観視はできない状況下にある。中でも我が国は3人に1人が「がん」でなくなる現状にあり、死因も断トツで1位となっている。そのような現状の中、島根県の「がん」に対する対策(計画と予算)は全国でも突出しているという特徴がある。島根県では、がん医療の向上を願う患者や家族の声に応えるために、「がん予防」「医療水準の向上」「患者支援」を3本柱とした「がん対策」に力を入れて取り組んでいる。さらに、「島根方式」と呼ばれる、患者、医療機関、行政、政治家、地元財界、メディアが「六位一体」でタッグを組み協力連携しながらがん対策の推進を行っているところにある。例としては、最初に患者が声を上げ、二番目に政治家が動いて条例ができ、医療機関が動きやすくなる。つづいて知事や県議、地元財界が高度医療機器の早期整備のために、がん対策基金(2007年7月)を立ち上げるなど、がん対策推進計画を独自の方法で行っている特徴がある。このように島根県は、がん医療の対策に力を入れてきたことが、高齢者の死亡率の低下につながり、健康長寿県として台頭してき理由と考えられる。

 「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」古事記、日本書紀に記されたスサノオノミコトが詠んだ、日本最古と言われる和歌。この出雲の地(島根県東部)は日本草創期、神話となって伝えられているドラマの舞台であり、出雲の大社(おおやしろ)を始め多くの古社が静かに佇んでいる。この空、この海、この森で、時に神を感ずる出雲の国、これが長寿へと誘う導(しるべ)なのかも知れない。
過日、8月4日台風9号が沖縄県本島に接近するという日、マクドナルドやケンタッキーのドライブスルーに長蛇の列を形成する沖縄県民!本当に今後、沖縄県民の健康長寿はどこに行ってしまうのだろうか・・・沖縄の地で健康を支援するものとしての限界を感じる今日この頃でもある。

参考文献:
島根県庁 健康福祉部 医療政策課 資料 古事記ものがたり 第13話

高瀬 幸一
人間健康学部スポーツ健康学科
准教授 高瀬 幸一

profile 島根県出身。 専門はバイオメカニクス、運動生理学。高齢者の筋機能に関する研究を行い、国際学会(ACSM)などで活躍する傍ら、地域の老人会で「ゆんたく講師」を務めるなど、幅広く活躍している。陸上競技部コーチ(中・長距離)。